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6/8 映画「華麗なる賭け」の日本語吹き替え版は誤訳?

ミシェル・ルグランのヒット曲「風のささやき」で知られる映画「華麗なる賭け」 (原題:THE THOMAS CROWN AFFAIR) の、テレビ放映された日本語吹き替え版における日本語訳の一部分が、わざと誤訳になっていると思われる。
興行成績を上げるため、だと思うが、原作の大事な趣旨をわざとひん曲げていると考えられるのだ。

どのようにひん曲げているかをご説明するまえに、この映画のあらすじをご紹介しよう。

順序としては、まず、ひん曲げられているところまでのあらすじを紹介し、そこであらすじ紹介を一時中断して、ひん曲げの説明をおこなう。
そして、ひん曲げの説明がおわったら、再びあらすじ紹介をおこなう。

最初から一時中断するところまでのあらすじを【あらすじセクション1】、それ以後を【あらすじセクション2】とさせていただく。

あらすじをご存知の方は、【あらすじセクション1 END】まで飛んでいただきたい。

【あらすじセクション1】
トーマス・クラウン(スティーブ・マックィーン)は、大金持ちの社長である。
彼は、自身で練り上げた銀行強盗計画を、たがいに見ず知らずの4人を強盗役として、さらに一人を現金運搬役として雇うことにより、実行に移す。
トーマスの会社のまん前の銀行を白昼堂々、襲撃させたのだ。

4人の雇われ強盗団はトーマスの計画を忠実に実行し、彼らの制止を無視して逃げようとした若い男のふくらはぎに消音拳銃弾を一発お見舞いした以外は何の危害も加えず、260万ドルの現金をせしめることに成功する。
トーマスはその金をスイス・ジュネーブの銀行に保管する。

ボストン警察は捜査を開始するが、なかなか解決の手がかりがみつからない。
260万ドルを丸損するはめになりそうな保険会社は業を煮やして女調査員ビッキー(フェイ・ダナウェイ)を派遣。

最近のスイスへの渡航者リストとリスト掲載人物のプロフィールを見せられたビッキーは、鋭い直感力により、トーマス・クラウンをピックアップ、彼こそホシだ、とにらむ。

彼女はわざと自分の身分を明かしてトーマスに近づき、協力者であるボストン警察を怒らせるような法を無視した汚い手段を駆使して調査を進める。
しかし、知力にすぐれたトーマスは尻尾をつかませない。

トーマスにたびたび接触するうちに、彼女はトーマスにたいして愛情を抱きはじめる。

ところがとんでもないことに、トーマスは新たな銀行強盗を計画。
彼はその計画をこともあろうにビッキーにうち明けて、成功したら一緒に外国へ高飛びしよう、と誘う。
ビッキーは、銀行強盗はもうやめてちょうだい、とトーマスに哀願するが、トーマスは馬耳東風とばかり受け入れようとしない。
【あらすじセクション1 END】

では、ひん曲げの内容を説明させていただく。

上記セクション1の最後のところなのだが、「銀行強盗はもうやめて」というビッキーの哀願をトーマスが拒否する場面である。

以下に英文のセリフ(小生が ワーナー・ホームビデオ・字幕版・1968年制作 でヒアリングしたもので、多少の誤りはご勘弁を。 ) およびその日本語訳を併記する。

日本語訳は、テレビ放映された吹き替え日本語訳を正確に掲載すべきなのであるが、テープ等の記録がないので、小生の記憶に頼らざるを得ない。
ところがまずいことに、トーマスのセリフの吹き替え日本語訳である「賭けだ。華麗なる賭けだ。」以外は忘れてしまったのだ。
そこで、申しわけないのだが、上記の「賭けだ。華麗なる賭けだ。」以外は小生の拙い訳でがまんしていただきたい。
ひん曲げ説明の大勢には影響しないので。

なお、ビッキーの哀願は、その大部分をカットして、最後のひとこと("You won't need a money.")だけを掲載した。

(ビッキー)"You won't need a money." 「おカネはこれ以上いらないでしょ。」
(トーマス)"It's not a money. It's not a money." 「カネのためじゃないんだ。カネじゃあない。」
(以上は小生の訳)
(トーマス)"It's me. It's me and system. System." 「賭けだ。華麗なる賭けだ。」
(これがテレビ放映された日本語吹き替え版の訳)

以上である。

ここで小生が問題にするのは、"system" に「賭け」という意味やニュアンスがないことである。
ちなみに、「ランダムハウス英和大辞典・パーソナル版」に載っている日本語単語(名詞)だけを羅列してみる。

system
1(部分や物の結合・組合せから成る)系、系統; 組織網; 機構、装置
2(相互に関連を持つものの)組織[体系]、編成[方式]、組合せ[法]
3(知識・思想・教養などの)体系
4(組織的な)制度、機構、仕組み
5(体系的なまたは特定の)方法、方式、やり方、手順
6 正しい筋道(方針)
7(天体について)系
8 世界、宇宙
9 [天文](宇宙の構成に関する)学説、説、仮説
10 [生物](1)(theを冠して)(身体器官などの)系統、系
11 性格、人格、人柄
12 分類法[式]
13 [地質]系
14 [物理化学]系
15 [チェッカー]陣地
16(通例theを冠して)(一般に社会・事業・政治の)体制、組織
17 [結晶](基本になる6種類の結晶の一つの)系

「賭け」に類似する単語や「賭け」に関連する単語がないことをご納得いただけると思う。
つまり、「賭けだ。華麗なる賭けだ。」という訳は、"創作"としか考えられない。

では、どう訳すのが正解だろうか?

It's me. It's me and system.
と me を2回言っているので、system は me を強調または補足していると考えられる。

すると、前記の辞典の訳語のうち、
10 [生物](1)(theを冠して)(身体器官などの)系統、系
11 性格、人格、人柄
がピックアップされる。

system のまえに the がないが、小生がビデオの音声で the を聴きわけられなかった可能性があるので、10番はカットできない。

10番からは、「私自身」とか「私のすべて」という訳語が考えられる。
11番からは、「私のやり方」、「私の生き方」ということか。

小生が正解と考える訳は、
「俺のためだ。俺の心を満たすためだ。」

この訳が正解または正解に近い、とすると、トーマス・クラウンなる人物の正体は、「犯罪を犯すことに生きがいを感じ、犯罪行動なしには生きて行けない男」という異常性格者であることになる。

トーマスが異常性格者の片鱗を見せるのは、最初の犯行が成功裏に終わって、紙幣がつまった布袋を車に載せて帰宅した彼が一人で祝杯をあげながら、異常な高笑いをする場面である。

また、新たな銀行強盗計画の中止哀願をトーマスから再度拒否されてビッキーがすすり泣くシーンがあるが、"トーマスは異常性格者" という観点、およびビッキーはそんなトーマスを愛してしまった、という点から見ると納得できるシーンである。

この映画の本来の姿は、原題にも "THE THOMAS CROWN AFFAIR(トーマス・クラウン事件)" とあるように、異常性格者トーマス・クラウンが起こした事件を描いたシリアスなものであると思うのだ。

では何故テレビ放映された日本語吹き替え版では "It's me. It's me and system. System." を「賭けだ。華麗なる賭けだ。」と創作的な訳にしているのか?

「犯罪を犯すことが生きがいである異常性格者トーマス・クラウンが起こした事件を描いたシリアスなドラマ」では、日本ではヒットしない、と日本の映画配給会社は考えたのではないだろうか。

そこで、この映画をヒットさせるべく映画配給会社が考えたことは、この映画のアウトラインを「大金持ち社長のお道楽犯行」とリメークして、それにふさわしく日本版題名も「華麗なる賭け」にした、ということであろう。

したがって、前記の「賭けだ。華麗なる賭けだ。」という創作的な訳も、上記のリメークのためには必要不可欠であったわけであろう。

以上の理由により、「テレビ放映された日本語吹き替え版は、原作の大事な趣旨をわざとひん曲げている」と小生は申しあげるのである。


なお、ワーナー・ホームビデオ字幕版では、問題のトーマスのセリフを、「組織のためなんだ」と訳している。
何の組織か? と聞きたくなる。
「犯罪組織だ」という答えが返ってきそうだが、そうだとすると、その犯罪組織はトーマスにとって特定のもの、たとえばマフィアのボストン支部、であるから system の前に the がなければならない。
小生が the を聞き取れなかった、と百歩ゆずったとしても、犯罪組織という暗いイメージは、全体にしゃれた雰囲気のこの映画にマッチしない。
とくに、スティーブ・マックイーンは、犯罪組織の一員というキャラクターではない。一匹狼のツラがまえだ。
さらに、「犯罪組織」なら syndicate が使われるだろう。
よって、system は「犯罪組織」ではないと思う。

では「組織」とは何のことか? というよりも、「組織」という意味不明な訳になっているのは何故か? と考えると、そこに、翻訳者の葛藤が見えてくる。

翻訳者としては原作に忠実でありたい。
しかし、そうすると(すなわち system を原作の意図に沿って翻訳すると)前記した映画配給会社ご妙案のリメークが成り立たない。
かといって、日本語吹き替え版のように「賭けだ。華麗なる賭けだ。」と配給会社にしっぽを振るような訳は翻訳者の良心に反する。
そこで、悩んだ末、および配給会社との舌戦の結果の妥協案が「組織」という曖昧な訳になったのであろう。


では、あらすじの続きへ進もう。

【あらすじセクション2】
そして、トーマスは銀行強盗計画を前回とおなじように実行し、通報ボタンを押した銀行員を射撃してしまうミスはあったものの、またしても大金をせしめることに成功する。

数個の布袋に入れられた大量の紙幣は、雇われ運搬役が運転するステーションワゴンに載せられて大きな墓地に運ばれ、運搬役は布袋を、一回目の犯行のときに使われたのと同じごみカゴにつめこむ。
運搬役から見えにくい位置に停められた車の中から、息を殺してそれを見まもるビッキーとボストン警察の警部。

ステーションワゴンがいなくなってから2時間後、トーマスの愛車 黒塗り、ホワイトサイドタイヤのロールスロイス・クーペが墓地にあらわれる。

こつ然と出現した数台のパトカーに包囲されて立ち往生するロールスロイス。
まっさきに歩み寄ったビッキーが、ロールスの運転席ドアをあけてびっくり。トーマスとは似ても似つかぬ若い男が乗っていた。

混乱するビッキーに、ロールスの持ち主からたのまれた、と若い男が差し出した手紙に書かれていたことは、「先に行く。そのくるまは君にプレゼントする。」

トーマスを捕らえて改心させることはもはや不可能、と知り、手紙をちりぢりに引き裂いて涙するビッキーの頭上高く、一機の旅客機がゆっくりと飛び去って行く。

旅客機の中では、ロックグラスに注がれたウイスキーが、ファーストクラスのシートでもの思いに耽るトーマスのもとに運ばれたところであった。


(蛇足)
二度目の銀行強盗でせしめたカネのゆくえは?

ボストン警察が墓地のごみカゴから回収し、被害に遭った銀行に返却してメデタシ メデタシですって?

正解です。ひとつの。
もうひとつの解答は次のようです。

トーマスは飛行機に乗るまえに、その墓地とは全然ちがう場所でカネを回収したと考えられます。
墓地のごみカゴにつめこまれた布袋の中身は、紙幣ではなくて、たとえば紙くずばかり、というわけであります。
そして、せしめたカネは、トーマスが乗っている旅客機の荷物室で、彼の特大ボストンバッグをぱんぱんに膨らませていることでありましょう。

メデタシ メデタシ。


(蛇足2)
テーマ曲「風のささやき」他のさわりは
http://www.0510.co.jp/records/ThomasCrown.jsp
で聴けます。



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5/31 英単語の暗記に単語集はNG

勉強を教えない通信教育受験塾の捨面子(シャメンツ)です。

また発刊予定日(毎週日曜夜)をオーバーしてしまった。申しわけない。
小生は高校生のとき、遅刻常習犯であった。「スズメ百まで踊り忘れず」か。
だれだ? 「ばかは死ななきゃなおらない」と言ったやつは。

さて、今回の主題だが、タイトルのようなことはよく耳にする。
さらに、「英単語をおぼえるには、例文を暗記せよ」と言う先生方も多い。

なぜか?

小生は、塾(実在しています)では数学を担当していて、英語は本業ではないのだが、昔、旺文社のマメ単語集を使って英単語を覚えたことのある反面教師として、反省をこめたコメントをさせていただくだけの資格はあるだろう。

また、まえおきが長引いた。「前置先生」と言われそうだ。

「単語集はNG」ということのココロは、
「ほとんどの英単語のひとつひとつは日本語単語に対応していない。日本語単語で置き換えるなんてできない。 英単語というやつはそんなに単純なものじゃあない。」
ということなのだ。

それは、英語と日本語とが、まったく異なる言語だからだ。

「そんなこと言われなくてもわかってるよ」
とおっしゃりたい気持ちはよくわかる。 しかし、どこまでおわかりかな?

言語体系というソフトが異なる、というだけでなく、それを遥かに超えたちがいがある。
Windows か Mac か、どころではないのだ。

英語をつくったイギリス人の感じ方、考え方、およびそのバックになっている気候風土、歴史、宗教、文化、エトセトラが、日本人のそれらとおおいに異なるのだ。

たとえば、感じ方のちがいについてのごく単純な例として(単純すぎてやや問題ありかもしれないが)、ニワトリの鳴き声の表現がある。

日本語では「コケコッコー」(地方によっては異なるかもしれないが)。
英語では「クックドゥドルー」である。
これだけ感じ方にちがいがあるのだ。

感じ方、考え方、が日本人とはいちいち異なるイギリス人から発生した英語が、日本語とは、その外見的なソフト部分(アルファベット表記、文法など)だけでなく、中身であるコンテンツ(ニワトリの鳴き声の類や、単語、フレーズなどに含まれるココロのようなもの)も大きく異なってしまうのは当然の結果なのだ。

というわけで、英単語と日本語単語とを羅列しただけの英単語集(たとえばO社の「○単」など)は、カテゴリー "NG" に属する。


(蛇足)
小生は、しゃべり方については、アメリカ英語よりイギリス英語が好きだ。
アメリカ英語はズルズルしていて、あまりメリハリがない。
イギリス英語はアクセントなんかがはっきりしていてメリハリがある。

古くて恐縮だが、オードリー・ヘプバーンの英語はメリハリがあって聴きやすく、美しい。
それにくらべて、小生がファンであるスティーブ・マックィーンの英語はズルズル・アメリカン・イングリッシュそのもので、聴いてがっかりさせられた。
日本語吹き替えを聴いているほうがずっとマシだ。

スティーブ・マックィーンといえば、彼の運動神経の化身のように流麗なアクションこそないものの、フェイ・ダナウェイとともに、しゃれて、深味のある演技で小生を魅了してくれた " 華麗なる賭け " を思い出す。
日本語吹き替え版では、大金持ち社長のマックィーンが、お遊びで人を雇って銀行強盗をやらせる、という筋書きだが、もとの英語版では、まるでちがうのだ。

次週は、お勉強をはなれて、それについて書かせていただきたいと思うのだが?




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5/23 鵜呑みにするべからず


勉強も教える通信教育受験塾の捨面子(シャメンツ)です。

先週(5/15)は、「能率的な一夜づけ暗記法」 を書かせていただいたが、少しは参考になっただろうか?

「こうするとよい」 と言っておきながら無責任なはなしだが、あれを鵜呑みにしないでいただきたい。
どーゆーことかというと、お勉強の方法というものは( お勉強にかぎらないが )、貴君の目的により、また、貴君の好みなんかにより、貴君にたいしてレディメードではだめで、オーダーメイドであるべきだ、ということだ。

ある方法が提示されたとき、鵜呑みにせず、それが本当に自分に適したものかどうかを、貴君ご自身の脳ミソで判断していただきたい。

もちろん、納得できる部分だけを取り入れてみるのもよいと思う。

これは、お説教めいてしまうが、自分自身をよく見ないとできないので、自分を知ることにつながり、貴君の生きかたのヒントにもなるのではないか、と思う。

至極かんたんであるが、今回の講義は以上でおしまい。
がっかりした?

次週は、先週とおなじく、お勉強の方法について書かせていただこうと思っているので、よろしく。


(蛇足) 上記のことも鵜呑みにするべからず。




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5/15 試験直前対策・能率的な一夜づけ暗記法


勉強も教える通信教育受験塾の捨面子(シャメンツ)です。

「学問に王道なし」(正確には「幾何学に王道なし」)とは、有名なことわざだが、道というものは、本道のほかに大抵うら道ぬけ道けもの道なるものがあるのであって、学問も例外ではない。

今回は、タイトルにあるように、能率的な一夜づけ暗記法をご伝授申しあげよう。
といってもマジックライクなものではない。
心理学を応用した、教育にたづさわる者には定番の方法である。
定番がゆえに、それなりの効果は保証できる。

1.こま切れにする。
いちどきに長時間の暗記作業をしない。
20~30分くらいをひと区切りにして、他の作業(数学の問題を解くなど。休憩をいれるのもよい。)と交互におこなう。
20~30分という時間を指定したのは、人間がひとつのことに本気で集中できるのはそのくらいの時間だからだ。

2.自己テストをおこなう。
確実におぼえたか否かの確認をときどきおこなう。
そこであやふやだった事項にマークをつけたりして、重点的に攻める。

3.寝る直前に総復習。
寝る直前にその日にやった全暗記事項を総復習して、おわったら即寝る。

以上。
カンタンでしょ?

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4/24 若者ニ告グⅣ


勉強も教える通信教育受験塾の捨面子(シャメンツ)です。

前回は、「趣味 や 好きなこと の延長線上に自分の天職がある」という趣旨の新聞記事をご紹介したが、ほんとにそうだと思う。

私事で恐縮だが、小生は昔、民間会社のサラリーマンをやっていた。 自社の製品をつくるための生産設備機械の設計がおもな仕事であった。

仕事は気に入っていたが、多忙すぎるとか、人間関係とか マァいろいろあってサラリーマンをやめることにしたとき、つぎにやる職業を、鍼灸師
(シンキュウシ:ほそい針を人体に刺したり、皮膚にモグサなるものを付け、それを燃やしたりして病気や痛みをなおす治療をおこなう者)にしたのである。

鍼灸師を選んだ理由は、妻の知り合いに鍼灸師がいて、それがえらく繁盛しており、そのマネをしようと思ったのである。
小生はそれまで鍼灸にはまったく興味がなく、また、人の病気をなおすことにも興味はなかった。
つまり、「金儲けのため、イイ生活がしたいため」 だけで選んだのである。

鍼灸学校に通って、おもしろくもない勉強をして、鍼灸師の免許を取り、いざ開業してみたら、惨敗であった。
治療した患者さんから「もういちど治療してほしい」と言ってこないのだ。
小生が鍼灸を好きでないこと、病気をなおすことに興味がないこと を賢い患者さんたちは、それこそ肌で感じたのではないだろうか。

しかたなく、鍼灸開業までの期間を食いつなぐつもりでやっていた学習塾を今もメンメンとつづけているわけで、カッコわるいことこのうえない。
まぁ学習塾も、成績が上がったときの生徒のよろこぶ顔を見るのがたのしい(下がっちまったときは地獄だが)とか、生徒と冗談合戦をするのがおもしろい などの楽しさはあるのだが。


そんなわけで、はじめの方に書いた「趣味 や 好きなこと の延長線上に自分の天職がある」というフレーズが、小生には、あざやかにきめられたボディブローのようにズシーンと心にひびくのだ。

ご自分の進路で悩んでおられる青春まっただなかの貴殿、小生のような愚かな輩(こういうのをホントの愚輩というのだ!)の轍を踏まないように、自分が好きなもの、心ときめくもの は何なのか? ご自分の心の声によーく耳をかたむけられるよう、お願い申しあげる次第である。


好きこそ ものの上手なれ



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4/18 若者ニ告グⅢ

勉強も教える通信教育受験塾の捨面子(シャメンツ)です。

[4/11 若者ニ告グⅡ]にひき続いて、ご自分のやりたいことを模索中の方のお役に立ちそうな記事を紹介させていただく。
朝日新聞なので、すでにお読みの方には申しわけないのであるが。

朝日新聞 4月12日>Let's 仕事のかたち>小島貴子のキャリアスタートQ&A 欄
[よかったと思える仕事 探すには? 第三者に相談するのも一法]



[ Q1]
自分のやりたいことが具体的に分からない。
学部で勉強していることが実社会にどうつながるのでしょうか。
どういう職種に就職すれば有利なのかもよく分かりません。
(私立大4年 OUさん)

[ Q2]
興味のあることはたくさんあるのですが、それを生かしてどんな仕事につけばよいのか分かりません。
この仕事でよかったと思えるような仕事を見つけるにはどうしたらよいでしょう?
(国立大2年 YKさん)



[ A ]
「しまったはずの場所にナイ! わあぁ~」という時、OUさんはどう探しますか?
自分の行動を思い出す?
それともいつも置く場所を探しますか?

自分で見つけられない時、私は探し物発見名人(夫ともいいます)にお願いします。
名人は聞き取り調査の末、私の記憶や行動とかけ離れた場所から探し出してきます。

仕事探しも結構同じみたいですよ。
自分が思い込んでいる自分より、第三者(弱音を吐けたり、一緒にいて楽な人)が見つけてくれる自分の方が、すてきな仕事を探してきてくれたりします。

私が支援してきた経済学部の女子大生は、控えめでおとなしい感じです。
大企業の一般事務職希望。 何十社も面接し、きちんとした応対で感触もいいのに、最後の最後が通らない。
本人にも周りにも落ちる理由が分かりません。

趣味を聞いてみました。
映画、それも結末はどんでん返し、ハラハラドキドキする映画が大好きだというのです。

嫌いなことは繰り返し作業。
好きなことは結果のみえないこと、身体を動かすこと。

どうですか? 経済学部だし、事務職希望は順当かもしれません。
でも、彼女の心と身体は違うものを求めていたようでした。

それを一番感じたのが面接官だったのです。

私は、彼女が考えもしなかったエリアから仕事を探してもらいました。
好きなことから関連する業界・職種へ発想を広げていく連想ゲーム方式でたどり着いた仕事は「旅行添乗員」。

どんなアクシデントが起きるか、最後までわからないのが旅。
責任感の伴うこの仕事が、彼女にはピンときたようで、今は、元気に日本中を飛び回ってます。

彼女の一言「旅先に興味が広がり、ワクワクしています」

(埼玉ヤングキャリアセンター講師)


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4/11 若者ニ告グⅡ


勉強も教える通信教育受験塾の捨面子(シャメンツ)です。

3月21日に[若者ニ告グ!]というタイトルで、「己の運命をご自分の意思で切り開いて、いきいきと生きていただきたい。」旨の記事を書いた。

しかし、これでは若者の皆さんに対して中途半端な言い様であることに気がついた。

気がついたきっかけは、数日まえの朝日新聞の[声]欄に載っていた19才の短大生の方の[若者は目標を必死に探そう]というタイトルの投書である。

それによれば、「やりたいことが見つからない」若者が多いそうである。

やりたいことがはっきりしていないのでは、羅針盤(最近はGPSらしいが)のない船のようなものだ。
小生が申し上げた「己の運命をご自分の意思で切り開いて云々」以前の問題だ。

小生がゴニョゴニョ言うよりも、百聞は一見にしかず、上記の方の投書をそのままご紹介しよう。

あわせて、同じ朝日新聞の4月10日付けの同じ欄に載っていた19才大学生の方の投書も紹介させていただく。


[若者は目標を必死に探そう]

最近いろいろと話題になっているフリーター問題。
私の友人にもフリーターがいる。
フリーターでも目標を持っていたり、人生の経験として役立てたりしている人もいる。
しかし、フリーターの友人たちの多くが「やりたいことが見つからない」と声をそろえて言う。
私は福祉の分野の短大に入り1年。
その友人たちに「いいよね、やりたいことが見つかって。うらやましいよ」と言われた。
とんでもない、自分の進路を考える大学受験期を迎えたときは本当に悩んだ。
私だって何をやりたいのか、自分には何が向いているのか、見当がつかなかった。
しかし、「やりたいことがない」なんて言い訳にすぎないと考えて、自分探しをした。
母が福祉の仕事に携わっていることに加え、10年前から要介護状態にある祖母の存在が大きなヒントとなり、福祉を学ぶことにたどり着いた。
自分なりにこれでよかったと思える。 それは、自分の進路をどうするか、あのとき必死になれたからだと信じている。
悩んでいる人たちは、自分を模索する努力をまず始めてみてほしい。
悩んで、苦しんで、損することなどないということを伝えておきたい。


[自分の進路は行動してから]

「若者は目標を必死に探そう」(6日)を読んだ。
しかし、いつまで悩んでいても、何も変わらないままだ。
私は、高校生時代には機械や電子などに興味があったが、現在は環境情報学部に所属している。
地球を取り巻く環境が悪化していることに影響を受けたのが、志望した動機だ。
入学当初は、これでよかったかなという思いもあったが、次第に自分のやりたいことが見えてきたように感じる。
それは、私にとって意外なことだった。
1年もたつと、自分の考えが次第に変わってきたことに気づいたのだった。 周りの環境が自分をつくるとも思った。
将来の進路を考えて悩むより、自分の進んだ進路で悩む方が重要ではないだろうか。
そうすれば、意外なところで、やりたいことが見つかるかもしれない。


勉強も教える通信教育受験塾塾長・捨面子

3/21 若者ニ告グ!

最近、「若者たちが無気力になったのは、日本の社会が、若者たちに夢をもたせることができないような貧乏で荒廃寸前の社会になってしまったからであり、日本の社会をこのようにダメにした大人たちが悪い。」という論評をしばしば見かける。

戦犯である大人の一員たる愚輩が言うのは愚の骨頂もいいところだが、たしかに、この論評はかなり正しい。
若者の皆さんに謝らなければならない。

しかし、若者の皆さん方がこの論評に賛成なさるのはもちろん結構なのだが、皆さんの中には、

「そうだそうだ。大人たちが悪い。おれたちはちーとも悪くない。おれたちは運のわるい被害者だ。ついてねえや、こんちくしょう。」

と、その上にあぐらをおかきになって、あいかわらず無気力のまま日々是無為日をおきめこみになり、高僧の悟りのごとく、行く雲や流れる水のようにいっさいをなりゆきにまかせるご心境でお過ごしいただいている方々もいらっしゃるようである。

そのような方々にたいして、「戦犯のくせに何をぬかすか。」と叩かれるのを承知のうえで、ひとこと(ふたこと、みことになるかもしれないが)言わせていただきたいと思う。


夢をかなえることがきわめて困難な、貧乏で荒廃寸前の日本国に生を受けられたこと、まことに不運で、ご同情申し上げる。

だが、その不運を己の運命として超素直にうけいれてしまい、その運命に唯々諾々と従って生きることで、貴殿はしあわせなのだろうか?

死期は誰にも平等にやってくる。
天皇陛下にも、朝青龍にも、イチローにも、松井秀喜にも、上戸あややにも、スマップにも、佐藤琢磨にも、黒田あゆみにも、そして貴殿にも、死期は確実にやってくる。

死ぬ1時間前、貴殿は何を想うだろうか?

「おれの人生、充実していた。くるしいことも多かったが、せいいっぱい生きて、たのしかった。」

私事で恐縮だが、愚輩はこう想って、死んでいきたい。

そのためには、運命に唯々諾々と従って生きるのではなく、己の夢の実現のために運命と闘わねばならないだろう。
それは、勝算がきわめて小さい闘いかもしれない。

だが、闘うこと、それ自体が大事だと思う。
闘わずして白旗をあげてばかりいたら、死ぬ1時間前に前記の想いはできない。

愚輩はそう思うのだ。


言わせていただきたかったことは、以上である。

これをどうお受けとりになるかは、当然ではあるが、全く貴殿のご自由である。

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(補足・3/22)
上記の文章では、「安らかに死ぬことために、生きているあいだ努力せよ。」と、「死ぬ」ことが主役のように受け取られかねないが、そうではなくて、主役はあくまでも「生きる」ことである。
すなわち、愚輩が申しあげたいのは、
「己の意思で運命を切り開き、いきいきと生きていただきたい。 そうすると、結果として、オマケとして、安らかな死をむかえることが付いてくる。」
ということである。
ただ、そのように書くと、愚輩のきらいなお説教調になってしまって面白くないので、上記のような書きかたをさせていただいたわけである。

GO! F1レーサー佐藤タクマ(3/6豪州GP)

2005年F1カーレース開幕戦(3月6日オーストラリア・グランプリレース)が近づいた。

愚輩が応援するのは、もちろん、参戦ドライバー中唯一の日本人で、B.A.R.Hondaチーム(ブリティッシュ・アメリカン・レーシング・ホンダ ---ブリティッシュ・アメリカン・タバコ が主スポンサー)に所属し、日本のホンダ技研製F1マシン(このギョーカイでは「競走車」を「マシン」と呼ぶ)に乗る佐藤琢磨君である。
彼は、昨年のアメリカGPで3位になり、日本人ドライバーとして14年ぶりに表彰台に上った。
また、昨年のパフォーマンスが評価され、フランスのモータースポーツ雑誌ロトモビルの "ルーキー・オブ・ザ・イヤー "を受賞している。
東京都出身、28歳の若獅子である。

F1(フォーミュラ・ワン)レースはカーレース界では最高位にランクされていて、各国のサーキット(レース場)を転戦する。
今年はオーストラリアGPを皮切りに、19戦がおこなわれる。
日本では10月9日に鈴鹿サーキットで開催される。

F1レースの中でも、美都モナコの公道をサーキットとして使用するモナコGPは、フランスの「ル・マン24時間耐久レース」、アメリカの「インディ500」と並んで世界3大レースのひとつになっている。

ル・マン24時間レースといえば、何年前だったか、かつての超二枚目映画俳優(ということは一枚目ということか?)のアラン・ドロン氏がスターターをつとめ、スタート合図用のでっかいチェッカー・フラッグ(格子状の市松模様の旗)を振ったカッコイイ場面が忘れられない。

チェッカーフラッグはF1レースでも使われる。
各マシンが規定周回数走り終えた(つまりゴールインした)ときに大観衆のまえで派手派手しく振られる。
したがって、ファースト・チェッカーフラッグをうけることは、優勝者だけの栄誉である。

最初にF1レースがおこなわれたのは1950年であるから、半世紀以上の歴史がある。
このときの開催国はイギリスであった。
イギリスは伝統や格式を重んじる国で、一見保守的な印象をうけるが、なかなかどうして、サッカー、ゴルフの発祥の地であり、現代のコンピューターのもとになったプログラム内蔵式電子計算機を最初につくったのもイギリスだし、音楽界では、かつての革命軍団 "ビートルズ "をリリースしている。

F1マシンはどんな車かというと、もちろん一人乗りで、タイヤはむき出し、エンジンは約900馬力、重量はドライバーを含めて軽自動車なみの約600kg、最高速度は新幹線なんかお呼びでない時速約370kmに達する。

空港でジャンボジェット機を引っ張って移動させるトーバレス・トラクタという車(車らしくないが)のエンジンが約500馬力であるから、それの2倍近い馬力のエンジンを軽自動車に載せたような怪物である。

こんな怪物に乗って時速300kmを超える猛スピードでぶっとばすことをメシの種にしているF1ドライバーとは、命知らずで、デリカシーなんかお持ちあわせでない豪傑ぞろい、とお思いになるかもしれないが、決してそんなことはない。

たとえばブラジルの貴公子にして天才ドライバー、故アイルトン・セナ。
(Ayrton Senna da Silva. 優勝41回。 PP(ポールポジション*)獲得65回。 ---このPP獲得記録は未だ破られていない。)
ホンダのマシンで参戦していた1991年8月、日本の女性インタビュアーからホンダ技研会長・本田宗一郎氏の訃報をきかされるやいなや、彼の太いまゆ毛の下の温和な目は、たちまち涙にうるんだのである。

セナは、その約3年後の1994年5月1日、サンマリノGPで、コーナーを走行中に突然マシンのコントロールを失いコースアウト。時速210kmでコンクリート壁に激突し、本田宗一郎氏のあとを追うことになってしまう。
Senna, forever.


* PP(ポールポジション): 予選の単独走行で最も速いタイムを記録したドライバーのスタート位置(スターティング・グリッド)。 スタート時に全マシンは2列縦隊で並ぶが、その先頭でかつ最初のコーナーの内側寄り(今回のレースでは右側)。


今回のオーストラリアGPには10チームが参戦し、各チームとも2台のマシンを出走させるので、全出走マシンは20台である。
当然だが、各チーム2人のドライバーが参戦する。
佐藤琢磨の僚友は ジェンソン・バトン(Jenson Button.イギリス人。25歳。身長183cmのハンサムボーイ。)であって、F1では2位が最高位、佐藤とおなじく優勝経験はない。

今レースは今年度の開幕戦なので、佐藤琢磨君が所属するB.A.R.Hondaチームをはじめとするほとんどのチームが新規につくったマシンで参戦する。
したがって、昨年ぱっとしなかったチームが、新しい高性能マシンでレースを席巻する可能性は十分アリであって、波乱の幕開けになることを期待したい。

昨年の強者はなんといってもイタリアのフェラーリチームで、ドライバーのミハエル・シューマッハ(Michael SCHUMACHER.ドイツ人。36歳。あだ名は "紅い皇帝" 。優勝83回で歴代1位。)は全18レース中じつに13レースを制し、その強さは圧倒的であった。

彼は、スマトラ沖地震による津波被害の復興のために1000万ドル(約10億4000万円)を寄付したことで知られる優しい男であり、命知らずかもしれないが、セナと同様、デリカシーをお持ちの人間である。

また、ミハエルはダメチームであったフェラーリを立てなおして現在の最強チームに変身させた立て役者でもあるのであって、デリカシーだけでなく、マネジメントのセンスもお持ちのようである。
彼がF1ドライバーを引退して会社経営をするようなことになったら、その会社の株をお買いになるのも一興かと思われる。


3月6日(日)昼下がり、メルボルンの公園内に美しい湖を取り囲むように配置された全長 5.303kmのアルバートパーク・サーキットのスターティング・グリッドで断続的に空ぶかしをしている20台のマシン前方に設置された4段5列20個のシグナルランプのうち最下段5個のスタートシグナルが右側から順次赤色に点灯していき、最後の左端のランプが点灯したつぎの瞬間、全5個がいっせいに消灯する。
と同時に20台のマシンはF15ジェット戦闘機も尻尾をまくすさまじいうなり声をあげて、第一コーナーめがけて一斉に突撃を開始する。

そして、ファーストチェッカーフラッグを賭けた男たちの、限界を知らない闘いが始まる。

" いけっ! タクマ! "



TVオンエア:3月6日13:00からフジテレビ系
リアルタイム順位(ケータイ 12:00から):http://f1.racing-live.com/jp/index.html?http://f1.racing-live.com/jp/services/imode/index.shtml
PC速報(12:00から):http://sports.yahoo.co.jp/f1/event/opening/schedule/live/race.html

Qちゃん と「メンツ」

ご存知とはおもうが、「Qちゃん」とは、かつての世界記録保持者で、国民栄誉賞をも受賞したマラソンランナー高橋尚子のことである。

今日は、古いはなしで恐縮であるが、Qちゃんがアテネオリンピックの出場権を事実上獲得できないことになってしまった2003年東京国際女子マラソン記念大会での彼女のレースはこびについて、書かせていただく。

レースのもようは、つぎのようであった。

気温は24度という高温。 しかも、スタートから折り返し地点までの大部分が強い向かい風、という悪条件であった。

この悪条件のなか、スタートした日本が誇る世界記録保持者 高橋尚子は、向かい風をものともせずに飛び出し、15キロ地点までのタイムが自己最高を出した2001年ベルリンマラソンのときのタイムを23秒も上回る驚異的なハイペースでかっとばした。
そして、折り返し直後には、併走していたエチオピアの強敵アレムを、赤子の手をひねるが如く、あっという間にいやというほど引き離してしまったのである。

このみごとな走りっぷりに、沿道の観衆は興奮をかくしきれず、Qちゃんコールは最高潮に達した。

しかし、である。

そのあとは、追い風になったにもかかわらずペースが落ちはじめ、追い上げてきたアレムに39km付近で抜かれると、さらにペースが落ち、彼女の脚は、気の毒にも、カモシカから食用牛に変わってしまった。

結局、アレムに次いで2位、日本選手ではトップでゴールインしたものの、2時間27分21秒という予想もしない悪い結果(彼女の最高記録は2時間19分46秒)におわり、前述のように、アテネオリンピック出場権を獲得できないことになっていくのである。

このレースがこのように悪い結果になってしまった原因は、高温かつ強い向かい風という悪条件のもとで、自己の最高記録を上まわるハイペースで飛ばしたため、レース前半でエネルギーを消費し過ぎたことにある、とおもう。

しかし、こんなことは、百戦錬磨の高橋にとっては百も承知、二百も承知のことであって、十分に予測できたことであり、歯に衣着せずいわせてもらえば、「無謀」としか言いようがない。

なのに、なぜそんな無謀な行動に出たのか?

彼女のコーチである小出監督はなにをしていたのか?
レース中、小出監督は運転手つきのバイクを使ってQちゃんの先回りをし、沿道から彼女に何回もどなっていた。

しかし、レース後のQちゃんの談話によれば、小出監督の声は観衆の声援にかき消され、二度しか彼女の耳にはいらなかった、とのことである。

ということは、彼女のレースはこびは、ほとんど彼女自身が仕切っていたということになる。
彼女自身の意思で、前述の無謀な行動を選択した、と考えられる。

この無謀な行動に出た理由は、彼女がメンツにこだわってしまったからではないか、とおもう。
「私は世界記録保持者なのよ。私の脚は世界最速よ!」というメンツである。

このメンツにこだわりすぎた結果、「気温がなによ。向かい風がなによ。私の脚はそんなものに負けっこないわ。」となったのではないだろうか?

この推論がまちがっていなければ、彼女は、くだらないメンツのために、アテネオリンピック出場権を棒に振ったわけであり、このレースのためにおこなった米コロラド州ボルダーまで出かけての高地トレーニングや厳しい節制などのすべての努力を、水泡に帰させてしまったのである。

げにおそろしきはメンツなりけり。

なお、アテネオリンピック女子マラソンは、日本の野口みずきが金メダルを獲得した。
タイムは、2時間26分20秒であった。



ところで。

ところで、わが愛するQちゃんが、もし、この駄文をご覧になって、(ご覧になるわけないが)
「それは見当違いもいいところだわ。私はあのレースに賭けたのよ。世界記録更新を賭けたの。私の "華麗なる賭け "だったのよ。」
と反論されたとしら、愚輩にはお返し申し上げる言葉はない。

なぜかって?
それは、つぎのような名文句があるので。

"人生はおそれを知らぬ冒険か、無か。"(ヘレン・ケラー)


(蛇足)
愛称「Qちゃん」の由来は、彼女がリクルート陸上部の新入部員歓迎会において「オバケのQ太郎」の歌を熱唱して、おおいに盛り上がったことによるものであり、ルックスとはまったく関係がない。